Luva xRosalia Summer Festival [2002/08/01-08/31]
「お題頂戴!いざ勝負!」一試合目
/20020801-0809

リレー・バトル「お題頂戴!いざ勝負!」遊び方の説明

 1---まずリレーマスター(カプさん担当)が導入部を執筆
 2---次の人が「キーワード(お題)」を書く(早い者勝ち)
 3---自由に話を書き進める(最大 7話まで)
 4---ラストでリレーマスターが「キーワード」絡みでまとめる
誰でも自由に参加できます。
第一回目の参加者:
カプさん/ゴル子13さん/紀更 和さん/chickadee

「お題頂戴!いざ勝負!」 投稿者:カプ 投稿日:2002/08/01(Thu) 00:07 No.4
金の曜日、一週間の執務を終えたルヴァは机の上を整理し、グッと背を伸ばした。
窓から外を眺めれば、ランディとゼフェルが何やら話しながら帰って行く。
いつものように険悪なムードになりかかる所をマルセルが間に割って入る。
バツが悪そうに黙り込んだ二人の腕をマルセルが取り、ニコリと両方に笑いかける。
ゼフェルがマルセルの手を振り払い、駆け出す後をランディが追いかけ、すぐにマルセルも後を追い、
じゃれ合う様に三人はルヴァの視界から消えていった。
三人の内の誰かの館に泊まりこみ、賑やかに週末を過ごすのだろう。

「さて・・・と、私は週末をどうしましょうかねぇ・・・」
ルヴァの視線は、執務室の隅にある、ちょっとしたクローゼットを捕らえる。
私服や私物を入れておくために設置されている物だが、ルヴァの場合は・・・
つり竿が数種類、それに見合うようにリールも数種類、ウキやオモリ、ルアーにスピナー、
疑似餌に釣り針などの小物、帽子に偏光グラス、釣りベスト、
防水加工されたワーキングシューズからクーラーボックスまで一通り揃えてある。
場所と釣りの種類さえ決めれば、すぐにでも釣りポイントに直行出来るようになっている。

小川で浮き釣り。これはのんびりできるが、水辺の開けた場所なので週末は子供連れで賑わう。
時には、ランディやゼフェルが「カスタマイズ&パワーアップウォーターガンの実験」と称して、
盛大に水遊びをはじめたりもする。

湖でルアー。これは静かで釣りに集中できるが、静かなだけにカップルが時折現れ、
気まずい思いをすることもある。

いっそ夜釣りでも・・・そう考ながらルヴァは釣り道具を揃えはじめた。
小物を入れてある整理ケースを開けると、真っ先に目に飛び込んできたのは一つのルアーだった。
ロザリアからプレゼントされ、実際に釣りに使って万が一にでもロストしたら・・・
そう思って大切に飾っておいたルアー。
飛空都市から聖地に戻り、そっと仕舞いこんでおいた宝物とも言えるルアーだった。

「このルアーは使えませんね・・・」
それでも、週末はこれとは別なルアーを使いルアー釣りをすることに決めた。
ルアー用の竿を取り出し、二本に別れている竿を繋ぎあわせ、
目を閉じ、軽く竿を振りキャストのイメージトレーニングをする。
二度、三度・・・クンッと竿先が重くなり、「キャッ!」と小さな悲鳴も聞こえた。
目を開けると、驚いたような、あきれたような表情のロザリアが書類を抱えて立っていた。
竿先がロザリアの服のどこかに引っかかってしまったらしい。


お題「金魚」 ゴル子13 - 2002/08/02(Fri) 14:56 No.5
キーワードは「金魚」でどうでしょ?釣りだから魚繋がりで。
また遊ばせてください。よろしくー

じゃ、2話目行きます〜! chickadee - 2002/08/02(Fri) 21:00 No.6
「あーーーーー! ももも申し訳ありませんっ」
ルヴァはつい咄嗟に糸を手繰り寄せ、次の瞬間には『ビリッ』と嫌な音を立ててしまった。恐る恐る顔を上げれば、案の定、ロザリアのドレスの胸元を飾るレースが無惨にも裂けてしまった有り様が目に飛び込んで来、そして……
「ルヴァ」
ロザリアの怒りを含んだ声を浴びてしまう。

「ごっ、ごめんなさい!!」
釣り竿を放り出さんばかりに頭を下げて非礼を詫びたルヴァだったが、ロザリアは真っ赤な顔で捲し立てるのだ。
「酷いですわ! せっかくオリヴィエがわたくしのために仕立ててくださったドレスが!」

「……ごめんなさい、ロザリア」
繰り返しお詫びの言葉を綴るルヴァだったが、その胸の内では、苦いものが広がりつつあった。

 オリヴィエが仕立てたドレス――
そのお礼として、ロザリアはこの週末を送り主と過ごすことになっていた。彼女の恋人であるルヴァと過ごすはずだった週末をだ。
 前の週にはリュミエールが、その前にはオスカーが、それぞれ何らかの理由を元に、ロザリアとの時間を持っていた。
 そう、ここ一月近くの間、ルヴァはロザリアとデートをしていない。

 大好きな釣りを楽しむことができる……ということは、今のルヴァにとって、代償行為に過ぎないことだったのだ。

3話です ゴル子13 - 2002/08/04(Sun) 23:29 No.7
その夜のことだ。
ルヴァの選んだポイントはあまり人目に付きにくい場所のはずだったのに、
下草を踏み進む音となごやかな会話とがルヴァの耳に入った。
時折笑い声も混じる。
それはこともあろうにロザリアと、オスカーだった。
場所を移そうにも物音を立てて気まずい思いをするのも嫌だったので、ルヴァはじっと息を殺し二人が通り過ぎるのを待った。
「それじゃ明日着て行くものはどうするんだ?」
「オリヴィエがちゃんと見立ててくださったわ。」
「・・・なるほど。」
「いいのよ。どうせ執務の時の格好で行くわけじゃなし」
「でも残念だな。あのドレスは君にとても良く似合っていたのに。」
「でしょう?」
「フッ、自分でもよく分かっていると言うわけか。」
「破けてしまった後すぐにオリヴィエの所に行ったのよ。直してくださるって言っていただけて助かったわ。」
「でも残念だぜ」
「あら、なにが?」
「君を助けてあげるのが俺じゃないなんてな。」
「まあ・・・」
ロザリアは小さく吹き出した。
笑いながら彼女は言った。
「あなたが繕い物をしてくださいますの?」
オスカーも負けじと言う。
「そりゃあ君のためなら、なんてな。」
衣擦れの音がした。
「本当は明日だって俺が同行したいくらいだぜ。」
「だめよ。」
「そんなにオリヴィエの方がいいのかい?」
「そうよ。オリヴィエの方がいいわ。」
「フッ。つれないな。」
・・・
その後は、二人の会話はもう何も聞こえなくなってしまった。
ルヴァは真っ白になってしまった頭で必死に状況を反芻し、それから大きなため息をついた。
そして、自分を含めた男達がまるで金魚掬いをしているようだと思った。
捕らえて救い上げたはずなのに濡れた紙はすぐに破けて金魚は再び水の中・・・・・・
ルヴァは自分を惨めに思ったが、オスカー達も惨めだと思う。
きっとオリヴィエも?
「さあねえ・・・」
ぽそっと独り言を言ってしまう。
「金魚と違って、ロザリアはロザリアの行きたい場所に行くのでしょうけどね。」
そこは自分のところだと思っていたのに。

4話目です。 紀更 和 - 2002/08/05(Mon) 11:21 No.8
 翌日――ロザリアは約束通り、オリヴィエと休日を過ごすべく庭園のカフェテラスへと姿を見せた。カフェテラスの入り口にまだ、オリヴィエの姿は見えない。ぼんやりと庭園を行き交う人々を見つめ、物思いに耽ろうと思ったその時、ロザリアは背後から急に視界を何かによって遮られた。
「だ〜れ〜だ?」
「…ふふ、答えはどなたのお名前が宜しくて?」
 クスクス微笑みながらやんわりと視界を遮った手を外すと、ロザリアの背後には苦笑いしつつ「相変わらず切り返しがシャープだねぇ、アンタって」と呟くオリヴィエの姿があった。
「ちゃんとドレス着てきてくれたなんて嬉しいよ〜♪…立ち話もなんだから、テラスでおいしいお茶でも飲みつつ、話さない?」
 オリヴィエに促され、ロザリアはカフェテラスへと歩を進めた。

 涼しげな風が過ぎてゆく。カフェテラスでお茶と会話を楽しむ二人を、庭園で休日を過ごす人々の羨望や尊敬の入り混じった視線が、遠慮がちに追う。
「…ふふ、みんな見てるよ。アンタの事」
「それは貴方の方ではなくて?スレンダーな貴方が、真っ白なスーツを着てらっしゃるから…」
「よしてよ〜☆そりゃ私をほっとかないのはわかるけどさー、今日はアンタの華やかさにみんな惚れ惚れしてるんだ。…わかってるくせに」
「まあ、わたくし自分の領分はわきまえておりましてよ。相変わらずお上手ですこと、夢の守護聖殿」
「じゃあ、さ…」
 そこまで交わした会話の雰囲気とは急に打って変わって、オリヴィエはロザリアに何か思惑でもありそうな顔でニヤリと微笑みかけた。
「ルヴァと付き合うようになったのも、その『領分』ってヤツの成せる業…って事?」
 ロザリアは自分へと紅茶片手に向けられる、どこか悪戯心に満ちた流し目にも表情を変えることなく微笑んで答えた。
「あの方には、どうかわかりませんけれどね」
「おやおや、こりゃ随分とまた手厳しいねぇ」
 そう言っておどけた様子になったオリヴィエから微かに視線を逸らすと、穏やかな横顔ながらもどこか遠くを見つめるような顔になったロザリアの視線の先には、つい先日から休日だけ庭園で露店を開いている商人から、小さな金魚と水を入れた袋を手渡された子供の姿があった。
(あれは金魚掬い…といったわね。陛下のご希望で先日から露店に加えられたはず。生きた金魚をすくって、その後子供たちはどうするのかしら…)
 ぼんやりと自分以外に気をとられているロザリアを、穏やかな表情で見守りながら、オリヴィエはそっと呟いた。
「…金魚はさ、餌だけもらってても死んじゃうんだよね」
「え…」
「餌のほかに、金魚には三つの条件が必要なんだ。元気に泳いで欲しいなら、ね…」
「三つの…条件?」
「…そ。一つ目は、呼吸ができるように酸素を供給すること。そして二つ目は水をこまめに換えること」
「…で、三つ目は?」
 ロザリアが訊ねた問いに、オリヴィエは再び悪戯っぽい輝きを睫毛の奥へとしのばせた瞳を細め、穏やかに微笑みながら答えた。
「ナ・イ・ショ☆」
「まあ…。意地悪なさるのね」
「だって全部答えちゃったら、つまらないじゃな〜い。…そうだねぇ、アンタの恋人なら知ってるかもしれないよ?」
 オリヴィエは少しだけ困った表情で視線を伏せたロザリアを見つめながら、噴出しそうになるのを堪えつつローズティと紅茶のおかわりをテラス付きのウェイトレスに注文した。
「あの書物とお茶が恋人だったルヴァが、熱を上げた理由…なんとな〜くわかった気がするよ。今のアンタの様子を見て」
「…どういう意味ですの?」
「あぁ、ご機嫌を損ねたなら謝るよ。でも…アンタがそんな顔をするなんて、今日初めて知ったからさ。その顔…ルヴァ以外に見せちゃダメだよ、ロザリア。そうじゃないと、金魚みたいにうっかり掬われかねないから」
「まあ、わたくしが金魚掬いの金魚だと仰るの?ただ逃げ回るだけの?…随分な評価ですこと」
「アンタが金魚だったとしても、黙って掬われるとは思ってないさ。ただ、世の中…魔が差すって事があるからねぇ。勿論、それは金魚だけじゃなくて掬った人にも言えることだけど…」
「…え?」
 運ばれてきた紅茶を飲みながら、オリヴィエはそれ以上何も言わず、何やら含んだような微笑みを浮かべている。ロザリアは最後の言葉に何か引っかかるものを感じて、しばしローズティを飲みながら考えをめぐらせた。
「…さて、そろそろ場所移さない?日が暮れる前にアンタにあげるって言ってた、新しいジュエリーを見せたいんだよね。ついでに夕食も食べて行きなよ。ちゃんと帰りは送っていくからさ♪」
「え、ええ…」
 傍らでウキウキとそう語るオリヴィエを見上げていながらも、ロザリアの心は先ほど彼が呟いた一言へと向けられていた。
(『魔が差す』…って、ルヴァの事?まさか、あの方に限ってそんな事、あるわけが…)

5話 -山場の始まり- ってとこです… chickadee - 2002/08/06(Tue) 11:59 No.9
 土曜日もルヴァは釣りをして過ごしていた。けれどこの日は、彼は一人きりではなかった。王立図書館の司書をしている女性が夕方彼のところを訪れ、彼女と彼女からの差し入れが入ったピクニックバスケットと共に、夕方の湖で釣り糸を垂れていたのである。
 司書の女性は気になることを言っていた。
『やっぱりルヴァ様には、先代の補佐官様のように落ち着いた大人の方でないと……』
定番となっている噂とやらに、正直、気分を害したルヴァだった。

 その日の釣果も酷いものだった。いつもなら夜明けまで湖にいるところだが、ルヴァは早々に切り上げ、司書の女性を送ることもせず自分の館へ戻った。

 ルヴァはシャワーを浴びた後に書斎に隠り、干し魚を肴に盃を煽っていた。月灯りがやけに鋭い光で周囲を照らす夜だった。
(誰からも祝福してはもらえないようなものだったんでしょうか)
彼の恋は――

 部屋の灯りを消して窓の外を見遣り、そんなことを思うルヴァの目に、紅色の影がよぎった。目をしばたかせ、影を確認した彼の咽から、呻きに似た声が込み上げる。
「ロザリア……?」
けして早いと言える時間ではない。ましてや若い女性が一人歩きするような時間でも……
ルヴァは書斎の窓を開け、外へと身を乗り出した。

 影はゆらりと動き、書斎の窓へと近付いた。
「ロザリアですか? どうしたんです、こんな時間に」
そう問うルヴァに、ロザリアは面を上げることもせず、ぽつりと言った。
「今日も、湖に行かれたそうね」
ソプラノは掠れていた。
「女の方とご一緒されていたとか……」
なじるわけでもなく、ただひっそりとしただけの、呟くようなロザリアの言葉に、かえってルヴァは空々しいものを感じ取った。
「それがどうかしましたか?」
苦い響きをしていると、彼は自分の声をそう思う。
「貴女だって、今日はオリヴィエと過ごしたのでしょう?」
「……」
応えは返らず、身じろぐロザリアに合わせて彼女の纏う紅色のドレスがゆらりとするばかりだった。

 絹の上を月明かりはメタリックな膜で覆い白いレースの複雑な陰影をまるで鱗のように弄ぶ。普段の彼女なら選ばないような色調のドレスは、ロザリアをロザリアでなくしてしまったように印象付けるのだった。

 ルヴァは自分の恋人であるはずの女の、その新鮮な美しさを、苦々しく思う。自分達が積み重ねて来たはずの日々――長かった女王試験での温かな記憶を、曖昧で頼り無いものとしてしまうからである。

6話 カプ - 2002/08/07(Wed) 20:24 No.10
あたりの空気さえも重く感じるような沈黙。
耐え切れなくなったロザリアが、口を開く。
「ね、ルヴァ。金魚が元気に泳ぐために必要なのは、餌と酸素と水をこまめに取り替えること・・・それ以外に条件があるとしたら?」
「えっ?金魚ですか〜・・・」
自分がロザリアを金魚すくいの金魚に例えていたことや、今もロザリアのドレスが月明かりの下で鱗めいて見えると思っている事を、見透かされてしまったようで・・・ルヴァは慌てて金魚の飼育方法を頭の中で整理した。
「そうですねー。強いて言うなら責任でしょうか・・・」
「責任・・・ですの」
「金魚は、人間が1000年以上かけて自然から切り離して品種改良したものです。いまさら「飽きた」といって川や池に放したとしてもそこで生きてはいけないでしょう。少し流れが急なら泳ぐ事は出来ないでしょうね。原種に近い和金なら何とか生き残るかも知れませんが、そうすると今度は鮒と雑交して生態系が壊れてしまいます。もし貴女が金魚が飼いたいって思っているのなら、こうした背景もしっかりわきまえて最後まで飼い続ける責任感を・・・」
(あ・・あぁ、どうして私は・・・)
ルヴァの言葉は止まった。
月夜に恋人と二人、いつもとは違うドレスに気がついても、その事を口にも出せない。それどころか、自分の行動を棚に上げロザリアがオリヴィエと会っていた事を責め、挙句に金魚の飼い方の講義。
おおよそ、女性が恋人に期待するものからは遠く離れているだろう。
「・・・ルヴァ?」
不意に黙り込んだルヴァをいぶかしむようにロザリアが声をかける。
「あ〜また講義になってしまいましたね。こんな事を知らなくても金魚は元気に泳ぎますよね。美しいものは美しいし、可愛いものは可愛い。そんな想いをかけてやることでしょうね。答えは『想いを寄せ続けてやる』でしょう」
「まあ、随分とお答えが変わりましたこと」
今夜初めてロザリアは笑顔を見せた。

7話(ごめんなさい!我慢しきれませんでした chickadee - 2002/08/08(Thu) 01:42 No.11
(ああ、なんて可愛らしい)
 普段の凛とした美貌とも手慣れた「補佐官の笑顔」とも異なったロザリアの笑顔に、ルヴァは胸の中で感嘆の声を上げ、今やこの可憐な笑顔をよく知る自分はなんと幸運な男なのだろう、と思った。そして、思う。早々と諦めて手放すのには惜しい、と。

 今の関係を作り上げるまで、必死に努力したと言うのとは少し違うのだけれど、「女王候補と守護聖」から互いに心通わせる存在へと変わるその道のりを経て来たものは、些細なすれ違いや他人の思惑に干渉を受けるようなことではない。

 ルヴァは
「今そちらへ行きます」
と言って書斎から隣の寝室へと部屋を移り、テラスを通ってロザリアの立つ庭へと降りて行った。

「館まで送ってくださるの?」
ロザリアにそう問われたルヴァは、
「そうですねえ」
と言うと悪戯っぽく笑い、
「送ってさしあげたら、泊めてくれますか?」
と問い返した。

 ロザリアは「まあ!」と言って口元を抑えたが、やはり悪戯そうに目を上げて
「嫌だと言ったらどうなさいます?」
と言ったので、ルヴァは
「じゃあ帰してあげません」
と、さも当然そうな口ぶりで応えた。

「貴方、今夜はお酒を召していらして?」
「ふふ」
今度は答えることはせず、ロザリアを腕の中に抱き入れてしまう。

 ルヴァは胸元の菫色をした髪にそっと口唇を寄せて、言った。
「いいじゃありませんか。こうして一緒に過ごすのもひさしぶりなんですから」
ロザリアは
「やっぱり酔っていらっしゃるわね」
と言うと、くすくすと忍び笑う。
「私は寂しかったですよ」
言って、ルヴァは口唇を彼女の額へと落とした。
「私の金魚さんは、すぐどこかへ行ってしまうんですから」

 ロザリアの腕がそろと動き、ルヴァの背中へと回された。

ラストです カプ - 2002/08/09(Fri) 03:02 No.12
回されたのは、片腕だけ。 もう片方の手は、額から唇へ移動しようとしていたルヴァの唇をやんわりと遮った。

「それで、今日ご一緒だったのはどなた?」
先刻とは違い声に混じる甘えた響き。

「あ〜、その・・・目下のライバルです。釣り場の情報交換をしたり、新しく工夫した仕掛けを披露しあったり・・・
魚釣りが嫌いな恋人をどうやって釣り好きにしたら良いかなんて相談されたりもしましたが・・・」
ルヴァの言葉は少し伸び上がって、重ねられたロザリアの唇で途切れた。

「本当にそれだけ?」
ロザリアはルヴァの胸に頭を預け、人差し指でルヴァの胸を軽くツンツン突つきながら尋ねた。
「それだけですよ…」
ルヴァはロザリアの体をもう一度抱きしめた。
司書の女性とはそれだけの関係…口が裂けても
(それにねえ…悔しい事に彼女は私より数もサイズも上の釣果を上げるんですよ…)
と正直にロザリアに告白する事は釣り好きのプライドが許さなかった。
「魔が差す事は誰にもありましてよ」
「ん〜、魔は不安や迷いに突け込むんですよ。あなたがどんどん綺麗になって私から離れていってしまうかもしれない不安。
私を選んで後悔しているんじゃないか?という迷い…忘れさせてください」
ルヴァは少しの酒と月の光と久し振りに抱きしめたロザリアの体温に酔っていた。
ルヴァの唇がロザリアの唇と重なる。ついばむように短く、角度を変えて長く深く
ロザリアはテラスから寝室に移動するルヴァに最後の甘い抵抗を試みる
「わたくしは、1人では生きていけない金魚ではありませんのよ…」
「私は金魚のようですよ。ロザリアと云う名前の酸素が欲しくて水面でパクパクしている、酸欠の金魚です。私を殺す気ですか?」
ルヴァはロザリアを抱き上げた。
「それに、どんなに泳ぎが上手くても、今は…あなたは私の腕の中です」
寝室への扉が閉まる。濡れたような月の光だけが庭に取り残されていた。

ロザリアはベットに半身を起し、満足げな淡い笑みを浮かべているルヴァの寝顔を見下ろしていた。
(わたくしの事を金魚だなんて…わたくしはそんなにひ弱ではありませんわよ)
そっと手を伸ばし、ルヴァの額に張り付いた前髪をかきあげる。
(それに金魚だって…最初は突然変異でも、毎日溢れる程の《想い》をかけられたら、綺麗になりたいって思うはずよ。
そうでなければ、あんなに色も形も変化するはずがないわ)
ルヴァの肩まで被うように上掛けを引き上げ、自分も隣に滑り込む。
「…ん…ロザリ…」
夢の中で想い人の名を呼び、その腕がひんやりとした細い肩を抱き寄せる。
(この腕が金魚鉢なら、金魚になりたいわ…もっと綺麗に…貴方にふさわしく…)
暖かく広い金魚鉢に抱かれて、青い金魚も夢の中…


---END---

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