Luva xRosalia Summer Festival [2002/08/01-08/31]
「お題頂戴!いざ勝負!」二試合目/2002/08/11- 25
参加者:カプさん/てんさん/お花畑さん/紀更 和さん
chickadee/ドロンジョさん/ボヤッキーさん/どくろべえさん

「お題頂戴!いざ勝負!」二試合目 投稿者:カプ  投稿日:2002/08/11(Sun) 11:37 No.13
ある、日の曜日。
地の館の窓が開け放たれ、そこからは本を抱えて室内を歩き回るルヴァの姿が見える。
「なんとなくお茶を飲みに来た」程度の動機でルヴァを尋ねてきた仲間の幾人かは、その様子を見て引き返していった。

ルヴァがしているのは書庫の整理。
こんな日に地の館を訪問すれば、『丁度いい』と手伝わされ、
そのうち館の主は『ちょっとだけ』のつもりの読書に夢中・・・
舞い上がった埃でくしゃみを連発、鼻をグスグスいわせながら帰る羽目になる。

本棚から出した本を、机の上に置き順番を考えながら本棚に戻していたルヴァの手が止まった。
抱えていた本と机の上の1冊。迷うように二つを見比べていたが・・・
やはり選んだのは、机の上の本。
「ちょっとだけ・・ほんの少しだけ・・・」
自分に言い聞かせるように呟くと、パラパラとページをめくる。
「・・・おやぁ?」
ルヴァは本の間に挟まっている、紙を見つけた。
それは、四つに折りたたまれ、端の方は少し黄ばんでいる。
「この本は・・・私より前の地の守護聖の誰かが残していった物ですが・・・」
ルヴァはうっかり破いてしまわないように注意してたたまれた紙を広げた。
お題いきます てん☆ -  2002/08/12(Mon) 13:55 No.14
おじゃましまーす。
お題は「夏の雪」
どうですか?
二話目です お花畑 -  2002/08/12(Mon) 19:08 No.16
「これは…」
そうっと広げた紙の内側にもう一枚、紙が畳み込まれていた。
とりあえず外側の紙を見ると、そこにはいくつかの書名とその著者名、そして版元が走り書きされてある。
ただのメモ用紙だった。
ちょっぴりわくわくしていたルヴァは少し落胆する。
「え〜と、『口語文法の歴史資料検索とその活用法』『比較言語学―主星とその周辺の諸惑星―』なるほどね」
メモを読み、それを書いた人間を類推する。
たぶん、五代前の地の守護聖のものであろう。確か彼は言語学を専門としていた。そんなことを考えながら、もう一枚の紙を開く。
「えっ…!」
前の物と同様のメモ書きがしてあるだろうと思いこんでいたルヴァは、予想を裏切られて目を丸くする。
「これは、ラブレター?」
無粋な書物の名前が記されてあるもう一枚の紙と同じ筆跡で、書かれていたのは紛れもない恋文であった。
下書きなのだろう。所々に二重線や書き込みが見える。ざっと読んだところ、これはたぶん女王候補生へ当てて書かれたものと推察できる。
これは、歴史書には書けないもう一つの歴史だ。
ルヴァはそう思いながらそっとその紙切れを畳み直した。
3話目〜 chickadee -  2002/08/13(Tue) 18:43 No.17
 女王の御代の、その年数はまちまちで、254代目の女王はルヴァのみならずジュリアスやクラヴィス達の守護聖就任時には既に玉座についていたことから、在位期間は10年を超えていた。そしてもうじき聖地から去って行くことになる金髪の女性が255代女王であるのは4年間ということになる。
 サクリアの与えられる期間がその者の出身地同様ランダムなものであることは、女王だけではなく守護聖もまた、そうだ。
 ルヴァは、彼の脳髄に貯えた記憶を紐解いて、5代前の地の守護聖が任期を終えて聖地を出たのは、来た時同様一人でだったのを思い起こす。

「サクリアを身に宿す者がその恋を成就させるのは、灼熱の真夏に雪が降るような確率なんでしょうね」
とルヴァはひとりごちた。
「或は、夏に雪を降らせるほどの思いを持つ者だけが――」

 ルヴァは手の中の本をぱたんと閉じて書架に残し、古い恋文を鍵付きの文箱へと移した。
 そのまま書庫の整理を続ける気を失ったルヴァは、気晴らしに外へ出かけることにした。
 従者に用意させた緑茶入りの水筒と、愛用の釣り竿と共に、ルヴァは何とはなしにここ飛空都市をぶらついた。釣り竿を持って来たものの、ルヴァは今すぐ釣りを楽しみたいわけではない。まだ日は高く休日の水場には人気もあるだろうからだ。
 ルヴァは公園の噴水前まで来ると、のんびりと辺りを見回した。

「ごきげんよう、ルヴァ様」
声をかけられたルヴァの目に、青い色の瞳が飛び込む。
「また釣りのことで悩んでいらして?」
「あー……、こんにちは、ロザリア」

 どうして会ってしまうのだろう、とルヴァは思った。よりにもよって、今の彼の胸の底に凝る思いの、そのほぼ全ての源である、女王候補に。
 そして、ロザリアに会えた歓びに躍り上がらんばかりの胸を、ルヴァはそっと抑えた。
4話目 紀更 和 -  2002/08/15(Thu) 02:42 No.18
 ルヴァの気持ちを知ってか知らずか、ロザリアは水柱がいつのまにか静まってしまった噴水に気づき、小さな波紋だけが残る水面へと視線を移した。
「あの…ルヴァ様。ちょっとお伺いしたい事があるのですけれど」
「は?な、何でしょう…?」
 一瞬、顔には出さない(というより、出せない)ものの、胸の内で嬉しい気持ちを大人しくさせることに意識を奪われたルヴァは、きょとんとした顔になり、傍らのロザリアを見つめた。
「ルヴァ様は…『夏に降る雪』がある事をご存知ですこと?」
「え?『夏に降る雪』ですって…?」
「ええ…。厳密には、『夏の海に降る雪』ですけれど」
 ルヴァは、あまりに偶然が重なるので一瞬心臓が止まりそうになったが、なんとか平静を保った。
「リュミエール様が、息抜きにと貸してくださった海の写真を集めた写真集に『夏に降る雪― サマー・スノー ―』という題名の写真が載っておりましたの…」
「なるほど…。あぁ、以前何かの文献で見かけたことがありますよ。えぇと、確かそれはプランクトンかその死骸が、海の中で白い雪のように見える現象だったような…。あー、ただ私は…そのぅ…実際にその現象を見た事がないのですけれどね」
 一瞬フェリシア周辺の海で、確認できるだろうか――などと思い描いたルヴァは、すぐにその考えを却下した。試験中の女王候補と守護聖が揃ってフェリシア周辺の海へ潜って、確認するなどという事ができようはずがない。
(うーん、どうすればいいでしょうね…)
 だが、あれこれ思索を巡らせた末、ルヴァはある事を思いついた。
「あー、ロザリア」
「…はい?」
「来週…土の曜日の夜、私が迎えにゆき…そして帰りはちゃんと送るつもりですから、もし都合が宜しければご一緒していただけませんかねぇ?貴方に…見せたいものがあるんです」
「わたくしに…?」
「ええ。残念ながら海ではないんですが、夜空に…白い雪が降るという光景をね」
「え…?」
 一瞬驚いたように瞳を見開いたロザリアを、穏やかに微笑みながら見つめたルヴァは「あー、それではこれから私は釣り場を探しにゆきますので、失礼しますねー」などといい、今日のところはロザリアと別れた。
「ルヴァ様ったら…。来週の土の曜日、それも夜に迎えに来てくださるだなんて、一体何を…」
 意図せず唇からそんな一言が漏れるのにも気づかず、ロザリアはルヴァと庭園で別れたあと、微かに頬を染めつつ女王候補寮へと戻った。
5話 ドロンジョ -  2002/08/19(Mon) 06:55 No.20
 そして、翌週の土の曜日。
 日が暮れて暫らくした頃、ルヴァは約束通りロザリアを女王候補寮に迎えに来た。

「どちらに連れて行って頂けますの?」
 問いかけるロザリアにルヴァは
「着いてからのお楽しみですよ」
 と笑って答えてくれない。

 暗い夜道を先導するルヴァの背中を見ながら、ロザリアは彼の右肩で揺れているターバンの端や存外に広い背中に安堵している自分に気付く。

 そう言えば、今までこうして彼の背中を見詰めた事など無かった事に気付く。
 いつもは向かい合って話しをするか、傍らで教えを請う事ばかりだったから。

 何だか寂しいと思ってしまうのは我儘なのかしら。
 ふと、そんな事を考えたロザリアは知らずに溜息を小さく漏らしてしまう。
 それを聞きつけたルヴァは振り返り

「どうかしましたか?」
 訊ねられて慌ててしまったロザリアは思わず一歩下がろうとして・・・バランスを崩した。

「危ないですよ!」
 ルヴァはよろめいたロザリアの腕を捕まえて
「暗いですから、足元には気をつけてくださいね」
 その手を握って並んで歩き出した。

 考えていたことを誰かに見透かされた様な気がしてロザリアはほんの少し驚いてしまったが、望んでいた結果が、つまりはルヴァの傍らに近付けて、きっと赤くなっているだろう頬を夜の闇が隠してくれる事に感謝していた。

 でも、夜空に白い雪の降る場所って・・・どちらの事かしら?
 もしかしたら流星?それとも・・・

 ロザリアは宇宙一の賢者が見せてくれるという物に色々と想像の翼を広げながら、期待に胸を膨らませていた。
6話 ボヤッキー -  2002/08/20(Tue) 16:22 No.21
 天に向けたルヴァの指先を、淡い光の流れが掠めて消えた。
「さ、始まったようです」
 柔らかなテノールを合図に次々と星が流れ、闇色の天幕を花蕊の形をした無数の光が埋め尽す。
 ロザリアが嬉し気に息を飲むのを見遣りながら、ルヴァは静かに満足した。

「ちゃんと流れてくれて良かったですよ。今夜を逃したら、次はいつになるかちょっとわからなかったんでねー」
「まあ、なんて綺麗!」

 半球を光で覆うかのように流れては消えまた流れ落ちる星の下で、そのまま二人は言葉を交わすこともなく、しばらく同じように天を見上げていた。歓声を上げたのがどちらなのかも、小さく笑い声を零したのがどちらかもわからない。否、二人ともそうしていたかも知れず、ただ微笑し続けていたのかも知れない……

 やがて、ロザリアがため息混じりに言った。
「……わたくし、今夜のことは、忘れませんわ」

 夜空に身を乗り出すかのように背筋を伸し、降りしきる星々に目を向けたまま、ロザリアのソプラノは続いた。
「主星に戻ってからも、一生忘れることはないでしょう」
 それはとても楽し気な声だったので、つい聞き漏らしてしまいそうな言葉だった。

「……あー、聖地の夜空もね、素晴しく綺麗なんですよ」
 ルヴァは穏やかに言葉を返してみるが、彼の心臓を引っ掻いて行ったロザリアの声はさらに甘く柔らかい刃物となって彼を傷つけた。
「試験が終わったら、わたくしは皆様のところへ留まることはできませんの」

 くるりと背を向けたロザリアの髪とリボンの縁を、流星群の輝きがちらと反射して消えた。
「ここへ召される前に、避暑地で従兄弟達と一緒に流星群を見ましたわ。お庭にシートを敷いて、一晩中眺めておりました。でも、こんなに綺麗ではありませんでした」
 優しいソプラノが言葉を紡ぐのを、ルヴァは焦れる心を抑えながら必死に耳を傾けた。
「女王になれなかったら、わたくしはその従兄弟の家に嫁ぐことになっているんです」

 ロザリアの生家は幾代も女王や補佐官を出して来た家ゆえに、その血統の維持を重んじる家であることは、ルヴァも良く知っていた。

 そしてこの日、試験はもう300日を超えていた。試験序盤の停滞が嘘のように飛躍を見せるエリューシオンに対し、ロザリアの育成するフェリシアはその半ばほども追いつけていない。

「ああ、ほんとに綺麗ですこと!」
声は楽し気なのに、ロザリアはルヴァの方を振り向かない。
「ルヴァ様には、どんなに感謝してもし足りませんわね」

 ソプラノの余韻が尾を引いて夜空に消えた。
7話目 どくろべぇ -  2002/08/22(Thu) 04:42 No.23
「…貴方は」
「え?」
 ぽつり、と薄い唇から漏れた微かな言葉。理知的な瞳が静かに星明りを反射しながら、ロザリアへと向けられる。
「まるで、流星のようですね…ロザリア」
 微笑んでいる。穏やかに、そして少し寂しげに。ルヴァのそんな表情を、無数に降り注ぐ流星が照らすぼんやりとした光の中、ただ見つめる事しかできないロザリア。
 そして微かな沈黙が二人の間を埋めようとした瞬間、再びルヴァの唇から零れる言の葉。
「見つめていられる時間は、とても…短い」
 静かに、一つ一つ零れるテノール。聞きなれていたはずの声が、どこか見知らぬ人のようで。
 小さくかぶりを振ったルヴァは、理知的な瞳を照れくさそうに細め、また見慣れた人懐こい笑みを浮かべる。
「…なんて、ね。ははは、私は…詩的表現には、あまり才能がないようです。今のは…聞かなかった事にしてください、ロザリア」
 再びゆっくりと瞳を上げて、穏やかに夜空を見上げたルヴァ。傍らで同じく空を見上げたロザリアの頬が、薄っすら朱に染まる。
 冗談にしてしまったことを、少し胸のうちで悔やみ始めているルヴァ。
 冗談にされてしまって、言葉が続かないロザリア。二人の間には、しばし沈黙が流れた。
「…ルヴァ様は、恋をされた事がおありになりますの?」
「え?こ、恋…ですか?うーん…」
 意外であり、予想していなかった質問。ロザリアは、静かに星を見上げながら、傍らで困ったような顔をしているルヴァへ視線を移す事なく呟いた。
「わたくしは幼い頃から女王となるために育てられ、教育を受けて参りましたわ。けれど、実際試験の場に身を置いて10ヶ月余りの期間を経た今、恋をするという気持ちがどういうものか、正直なところ…よくわからないんですの」
「……」
「もし、従兄弟の家に嫁ぐ事になったら、わたくしは一生恋というものを知らぬまま…生きていくのだろうか、それとも従兄弟に恋をして生を全とうできるのだろうか、などと…頭の中を色々な考えが巡ってしまいますわ」
「あー、守護聖も女王候補と同じですよ。この重責を担った瞬間から、自分以外の何者かに恋をする事は許されませんから。けれど…」
「…けれど?」
「恋を…意識した事が、ないわけではありません」
 オクテだと言われるルヴァの唇から漏れた言葉の意味を、一瞬理解できなかったロザリア。何時の間にか流星群は過ぎ、星空は静寂を取り戻す。
 ルヴァは秘めたものが指の隙間から零れ落ちて行くのを、もう止められそうにない。
 じっと見つめる瞳の奥に、普段は意識しなかった微熱。ずっと近くにいるようで、実は指先すらも届かなかった二人の距離。そんな埋まるはずもない距離が、その瞬間少しずつだが動き始めた。
ラスト カプ -  2002/08/25(Sun) 13:49 No.24
ロザリアの質問はルヴァの心の内から熱を引き出した。
しかし、その熱を正面からロザリアにぶつける事は出来ない。
ルヴァは熱い塊を胸に抱えたまま、不思議と冷静に素早く現状を分析している自分に気が付いていた。

ロザリアはその身に女王のサクリアの萌芽を宿しただけの少女でしかない。
ロザリアは女王になれなければ、生家へ戻り、その後の人生のレールも決まっている。
ロザリアは特定の人物に恋をして悩んでいるのではなく、もし仮に女王試験がなくても嫁ぐ日が近付けば同じように悩み身近にいる誰かに相談しただろう。
自分はその《誰か》でしかないのだ。

胸の塊が温度を上げる。
本当にそうなのか?相談相手を彼女は選んだのではないか?
『恋をした事があるか?』などと思わせぶりな質問をして、引き止めて貰いたがっているのではないのか?

理性が熱を押さえる。
それは自分が一番恋とは遠い場所にいて・・・年齢も離れていて・・・
ロザリアが信頼出来ると・・・

理性の隙間からチロリチロリと蛇の舌のように赤く焔が立ち上がる。
闇に紛れて手を繋いだときに彼女は嫌がったか?
なにより、人もいないこの場所に二人でいる。
肩を抱いたら彼女は嫌がると思うか?

最後の理性で、いつもは考えないでいる自分の宿命を振りかざす。
私は守護聖で、ロザリアは女王候補。

塊はその熱を保ったまま、封じ込められた。封じられたまま理性を嘲笑っている。
そんな言葉で自分を誤魔化して。
ロザリアが目の前からいなくなったら、聖地の外での彼女の人生は短い。
それこそ、流星の輝きと同じ。
残された臆病者の胸にはマリンスノーのように想いの屍骸だけが降り積もる。
マリンスノーは時の重さに押しつぶされて堅く冷たい石になる。

どんなに、心の中に葛藤があったとしても、言葉が途切れた時間は短かった。
「・・・らしくもない・・・」
冬枯れの梢を鳴らす風のように続く言葉がルヴァの唇からこぼれる。
「・・・?」
途切れた言葉と続いた言葉の脈略のなさに、ロザリアの表情が何かを待ちわびるものから、不信に思うものに変わったのが、かすかな星明りの下でも見て取れる。
ルヴァは、明るい声を意識して出した。
「今夜は二人とも『らしくない』事を話していますね。貴女は試験がまだ途中なのに、もし女王になれなかったら・・・なんて言い出すし、私は恋に付いて語っています」
ルヴァは守護聖の笑顔を浮かべた。責める口調ではなく諭すように質問を重ねる。
「ロザリア、貴女らしくもない。試験を途中で放棄する気ですか?中央の島にどちらかの建物が建つまでは試験中です。常に最善を目指して努力するのが貴女じゃなかったんですか?背中を丸めて、試験が終了した後の事を思い煩ってどうするのですか?よしんば、貴女が女王にならなかったとしても、家が貴女の人生を縛るのをよしとするのですか?」
ロザリアの表情が少し反抗心を漂わせた女王候補になる。
「ルヴァ様が恋を語るのも『らしくもない』ことですの?」
「そう・・・少なくとも試験中の女王候補と守護聖には・・・ね。あ〜第一、私が灼熱の恋に身を焼く図なんて想像がつきますか〜?」
ルヴァはヒョイと肩をすくめておどけて見せた。
「さて、と。そろそろ帰りましょう」
ロザリアの前にルヴァの手が出される。
暗い道を並んで歩く二人の肩が時々触れ合う。その温もりの心地よさに耐えかねてルヴァは話し出した。
「寮までのつれづれに少しお勉強をしましょう。流星には2種類あるんですよ。今夜みたいな流星雨と呼ばれるものは、宇宙空間に漂う塵の雲に星の軌道が重なった時に起こります。塵の雲に大気を持った星が突っ込んでいく形です。ですから流星雨の降ってくる中心点が私たちがいる惑星の進行方向になります。もう一つは、小惑星帯などからはじき出された石の欠片が、偶然惑星の大気中に飛び込む物。ほとんどが空気との摩擦で燃え尽きてしまいます。燃え尽きずに地上へ落ちてくる物は本当に稀です」
それから、ルヴァの話は隕石の組成、生物進化の方向を変えた隕石の話などと続いた。

女王候補寮につくとルヴァは、ロザリアの相槌と適所にはさまれる質問のタイミングが心地よくて、自分一人が話し続けていたことに気が付く。
改めてこの心地よさを手放したくないとは思うのだが、今は手放すしかない。
「あ〜結局は、お説教と講義になっちゃいましたね。退屈な話に付き合ってくれたお礼に『天から地に至って、正しき道を示す物』を差し上げます。月の曜日に執務室に来てください」

月の曜日、ロザリアがルヴァから手渡されたのは「方位磁針」だった。
「このコンパスの針は『隕鉄』つまり燃え尽きずに地上へ落ちてきた星の欠片で作ってあるんです。貴女が人生で道に迷わないようにお守り替わりにでもして下さい」
ロザリアの掌の上で赤く着色されたコンパスの針は震えながら北を指していた。
「ありがとうございます。大切にいたしますわ。ルヴァ様、燃え尽きない星は稀だとおっしゃってましたわね?」
「ええ、でも見つけられない訳ではありません。真夏に降る雪を見つけるぐらい難しいですけどね」
ロザリアは執務室が輝きで満たされるような笑顔をルヴァに見せた。
「わたくし、わかったような気がいたします」

何がわかったのか、ルヴァが聞こうとするより早くロザリアは女王候補に戻る。
「ルヴァ様、育成をお願いします。今日は少しで結構です」
「少し育成するんですね。わかりました。忘れずに地の力を送っておきますね」
ルヴァも守護聖の顔で答えた。

それからのロザリアの健闘は目を見張るものがあった。
データの活用と適切な育成、そして少しの妨害でフェリシアは見る間に発展し、エリューシオンは伸び悩んだ。
半月もあれば終了するだろうと思われていた試験期間はさらに一月以上伸びた。
が、それまでに広げられていた差は大きくロザリアは建物3個分アンジェリークに追いつけなかった。

ルヴァは一年近く暮した、飛空都市の地の館を見回した。
鍵付きの文箱に近寄り、蓋を開ける。
本の間から見つけた古い恋文に触れ、遠い過去へ話し掛ける。
「貴方はこの文を清書して、想い人に渡したのでしょうか?その人はどんな人でしたか?
こんなに情熱的な文を貴方に書かせたのだからすばらしい女性だったのでしょうね。
私の大切な人は、前向きで聡明で誇り高い人です。迷いや暗闇に付け込んだら手厳しく撥ね付けるぐらいにね。するべき事を彼女が終えた今、明るい光りの下でこの想いを告げてみます」
文箱の蓋を閉じ、用意してあった花束を持ったとたん、ロザリアの来訪が告げられた。
ルヴァは慌てて花束をカーテンの後ろに隠し、何食わぬ顔を取り繕ってロザリアを迎え入れた。

「あ〜ロザリア、いらしゃい。何か御用ですか?」
「わたくし、ルヴァ様にお礼を申し上げに参りましたの」
「お礼だなんて・・・それが私の、守護聖の仕事ですから・・・」
「いいえ、わたくしが最後まで全力を尽せたのはルヴァ様のアドバイスのおかげですわ」
「貴女は本当によく頑張りましたね」
「それに、新しい自分も発見しました。ルヴァ様信じられます?わたくしアンジェリークと掴み合いの喧嘩をしましたのよ」
「それはまた・・・」
意外な告白に、ルヴァは絶句した。
ロザリアは手を後ろに組み嬉しそうに、驚きのあまり口元が少し開いたルヴァの顔を見上げた。
「わたくし、妨害ってあまりお願いしませんでしたでしょう?」
ルヴァは試験開始まもなくロザリアが『妨害は相手の足を引っ張るようで好きではない』
と言っていた事を思い出し頷く。
そして、あの夜以来、妨害のお願いは多くなった。
「でも、あの子の育成は、試験序盤の基礎の所が弱かったの。わたくしあの子の大陸に出来るだけ被害を及ぼさないよう注意して、その部分が弱い事に気付くように妨害しましたわ。それなのにあの子ったら・・・」
「その、それで・・・」
「ええ、こんな顔で」
ロザリアは唇を尖らせて頬を膨らませて見せた。
「わたくしの部屋に飛び込んで来ましたの」
初めて見るロザリアの脹れた頬の新鮮さにドキリとしながら、ルヴァは自分がその場に居合わせなかった幸運に感謝した。
そして試験の最後に急速に女王候補同士の新密度が上がった理由もわかった。
「今ではもう、あの子の大陸の基礎も固まりました。これで安心ですわ。悔いは残りません」
ロザリアは女王となったアンジェリークから補佐官に就任するように要請されていた。
しかし、生家からも帰宅をせかすような手紙が何通も届いている。
ルヴァは悔いはないと言ったロザリアの言葉の清清しさに、別れを感じていた。
やはり、この女性は流星のように一瞬だけ自分の人生を輝かせて消えてしまう。
「そうですか、それは良かった」
やっと、言葉を搾り出し、ろくに味もわからないお茶を勧め、当り障りのない話題で時間を埋める。

玄関まで送りに出たルヴァにロザリアは以前、執務室で見せた笑顔を見せる。
この笑顔も見納め、そう思ったルヴァはロザリアが残していった言葉を理解するまでに時間がかかった。

「ルヴァ様、ルヴァ様から頂いたコンパスが狂ってしまいましたの。何度試して見てもルヴァ様がおいでになる方向しか指してくれませんわ」

理解したとたん、胸の奥に封じこめていた熱が理性を焼き尽くした。
小刻みに震える膝、熱く火照る頬、大声で叫び出したくなる喉を自分で叱り付けながら、
カーテンの陰に隠してしまった、赤いバラの花束を握り締めるとルヴァはロザリアを追いかけ走り出した。


---END---

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